図書館界隈について語るブログ

図書館司書が図書館業界について色々と書いていきます。

図書館司書はワーキングプアなの?

「私は最低賃金+40円・手取り9万8千円で働く非正規図書館員です。図書館の今を知り、未来のために署名をいただけませんか?」

という記事が世に出たのは2022年だ。
以前から「図書館司書が劣悪な待遇で苦しんでいる」という言説は多かった。それが事実でないというつもりはない。私は、知り合いに非正規で図書館司書として働いている人は何十人もいる。ただ、酷い給料だ! という話に賛同する前にいくつか疑問がある。

まず問いかけたいのは、

「年収が低すぎる!」というときは、年に何日出勤しているのかを説明してほしい。
「月給が低すぎる!」というときは、月に何日出勤しているのかを説明してほしい。

また、それぞれの日数を説明したとしても、1日の勤務時間を説明してほしい。

つまり

「年収が2百万円です。暮らせません」と言っても、月に10日しか出勤していなければ、「そんなものでは……」となる。
「月給9万円ってひどすぎませんか?!」と言っても、週に2日の出勤だったとしたら「そんなものでは……」となる。

勤務時間が一定でないため、一概に「給料が安すぎる」かどうかは比較しにくい。

そこで、労働条件から年間の勤務時間と年収を積算したうえで、「時給」を算出してみよう。もっとも、ここから社会保険料や税金がひかれるので、手取りではないわけだが。

https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/saiyo/kaikeinendoninyo/kodomo_kyouiku/tosyokansenmonin.files/R7_bosyuannai_1104.pdf

例として挙げてみる。令和8年1月1日から勤務開始の東京都練馬区の図書館非常勤職員の募集である。

⑴ 勤務時間
午前8時30分から午後5時15分まで(7時間45分勤務、休憩1時間)

⑵ 勤務日
月16日(土・日曜、祝休日勤務あり(年末年始除く))

⑶ 報酬等
報酬:月額 217,585円

まず、年間の総労働時間を積算する。1日の勤務時間は7時間45分で勤務日数は月に16日。1年は12ヶ月なので、7.75時間×16日×12ヶ月で年間の総労働時間は、1488時間である。

つぎに年収を積算する。月給は217,585円で、東京都特別区のボーナスは年間4.9ヶ月分なので、年収にすると12ヶ月+4.9ヶ月分で16.9ヶ月分となる。すると年収は3,677,186円である。

※ちなみに、この募集はボーナス支払日である6月と12月が勤務期間に入っていないのでボーナスの件は記載されていない。

年収の3,677,186円を総労働時間の1488時間で割ると2,471円である。

つまり、(練馬区の場合は)非常勤の図書館司書の時給は2,471円であると分かる。

これは本当に「ワーキングプア」なのか、自分には少々疑問が残るところだ。

岸本杉並区長当選と杉並区立図書館の今後について

以下の文章は令和4年に執筆し、放ったらかしにしていたものである。岸本区長と図書館について最近(令和7年3月現在)思うところあり、改めて書く前に「この頃はこう思っていた」と記録しておく。続きはそのうち書くつもり。

 

 

 

令和4年6月19日に執行された杉並区長選挙は、地方選挙としても珍しいほどの接戦となった。首長選挙では現職有利が常識である。しかし、結果はリベラル系の新人が約190票という僅差で現職を破る結果となった。

杉並区は、最近は比較的保守派の首長が続いていた(前区長は、出自こそ旧民主党だが、その後自民党と接近している)。区政は大きな方針転換となる。新区長となる岸本さとこ氏の政治信条はどのようなものだろうか。特に図書館との関りを簡単に調べてみた。

 

岸本さとこ氏は、自身の政策方針を「さとこビジョン」として選挙中に掲げていた。実質的マニフェストとして考えていいだろう。その中で、図書館に関して下記のような記述があった。

 

「○地域の文化交流の場としての図書館の充実をはかります。職員の正規比率を高め、民間委託を限定的にします。」

 

「公共サービスの民間委託、指定管理者制度、民営化が住民へのサービスを向上させたのか、検証します。新しいPFI事業は行いません。PFIを導入しているものについては抜本的に見直します。公共施設の縮小と民営化を促進する施設再編整備計画を見直します。杉並区の公共財を守り育てます」

 

 岸本氏は、企業組織が公共のフレームに入ってくる危険性を以前から強く訴えており、インフラ民営化へ警鐘を鳴らす本(『水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(集英社新書)等)も著している。典型的反民営化、反民間委託の考えの持ち主だ。これは首長として、最も重視するポリシーの1つのようである。

ここで「(図書館の)職員の正規比率を高め、民間委託を限定的にします」と明言するのは、指定管理や委託化の推進が、とりわけ都心部において顕著に進む現在において稀有な動きである。

「公共施設の縮小と民営化を促進する施設再編整備計画を見直します。」というのも、少子高齢化が急激に進み、どこの自治体でも公共施設の縮小方針がほぼ所与のものとされているところが多い中、珍しいと言えよう。

 

さて、ではこの「図書館職員の正規比率を高め、民間委託を限定的に」というのは、実質的にどのように実現されうるのだろうか。

 

まず、現在の杉並区の図書館の運営形態を見てみよう。

令和3年度の『東京都公立図書館調査』によると、杉並区の図書館は、全13館のうち直営館が4館、指定管理館が9館である。また、直営とはいえ、4館すべてに業務委託も一部入っているという。

そして、直営館の正規職員数は49人(うち司書25人)、非常勤職員44人(うち司書21人)である。

指定管理館9館の運営主体と契約期間は下記のとおりである。

阿佐谷図書館

株式会社ヴィアックス

令和3年4月1日から

令和7年3月31日まで

今川図書館

TRC・丸善・大星すぎなみグループ

令和2年4月1日から

令和7年3月31日まで

下井草図書館

TRC・丸善・大星すぎなみグループ

令和2年4月1日から

令和7年3月31日まで

成田図書館

株式会社ヴィアックス

令和3年4月1日から

令和7年3月31日まで

永福図書館

シダックス大新東ヒューマンサービス株式会社

令和3年4月1日から

令和6年3月31日まで

方南図書館

株式会社ヴィアックス

令和3年4月1日から

令和7年3月31日まで

南荻窪図書館

TRC・丸善・大星すぎなみグループ

令和2年4月1日から

令和7年3月31日まで

宮前図書館

TRC・大星すぎなみグループ

令和3年4月1日から

令和7年3月31日まで

高井戸図書館

TRC・大星すぎなみグループ

令和3年4月1日から

令和7年3月31日まで

※直営による運営の4館は、中央(一部業務委託)、柿木(非常勤を活用)、西荻、高円寺とされている。

 

「民間委託を限定的に」の言葉のとおり、岸本区長は、そもそも指定管理を止めようとするのだろうか。

新区長は、直営重視の姿勢を明らかに打ち出している。指定管理を縮小することは十分考えられる。しかし、契約中のものを即時破棄して直営に戻すことは、さすがに考えにくい。

区長の任期は4年であるから、岸本区長の任期は少なくとも令和8年の7月までである。すべての図書館の契約期間満了日が区長の任期内となる。そのため、「契約満了したところから直営に戻す」ようにしていけば、新区長がすべての図書館を直営に戻すことは可能だ。

指定管理を多く請け負っている9館のうち5館に絡むTRCと、3館に絡むヴィアックスは、区長の今後の動向に戦々恐々としていることだろう。

 

それから「正規比率を高くする」というのは、なかなか曲者の言葉である。正規比率を上げるということは、「非正規比率を下げる」という意味である。そのまま考えれば、非正規公務員を減らし、その席に正規職を異動させて就けることになる。

非常勤職員を正規職員に「引き上げ」して、正規職員として従事させる運用ができれば解決するだろうが、そもそも非常勤職員を正規職員に無試験で転用することは全国的にも殆ど行われていない(法的には可能であるという意見もある)。そんなことをすればコネ採用の温床となってしまうためでもある。

杉並区を含む特別区の職員採用を行う特別区人事委員会も、そのような採用を認めることはあり得ないだろう。

 

しかし、主要政策の一番最初に

「公共サービスにかかわるいのちと暮らしを守る仕事を地域経済と生活の安心のため安定雇用にします。」

と掲げている新区長が、雇用の不安定な非正規公務員を切って、その席に既に現在十分雇用の守られた正規職を就ける異ことはしないのではないか。

 

そこで、「民間委託を限定的に」という言葉が意味を持ってくる。

 

指定管理館の9館について、契約が終了したところから順次直営に戻す。直営に戻した図書館には、行政職の正規職を異動させ、新たに雇用した非正規職が担っていく形にする……ということが考えられる。

 

全国の自治体の中では、指定管理にした後で直営に戻すところも確かに散見されてはいるが、数が多いわけではない。全体で見れば指定管理や委託は増える一方である。しかし、都心の自治体で、安定的に続いていた指定管理館が全て直営に戻されることになれば、珍しいケースとなるだろう。

 

これまで様々な自治体の図書館で指定管理が導入され、費用面などで効果が検証、評価されてきた。杉並区においても様々な論拠を構築して指定管理による運営を合理化、正当化してきただろう。

首長の交代により、これから4年でどのような理由の元に指定管理が直営に戻され、指定管理時代を総括していくのか、興味深く注視していきたい。

 

さて、この動きの具体的なタイムスケジュールだが、9館の指定管理館のうち、8館が令和6年度末で契約満了となる。しかし、永福図書館だけが一足早く、令和5年度末で契約満了となる。気が早いようだが、「来年度いっぱい」ということである。ここが直営に戻されると、他の8館も全て直営に戻る可能性が高いだろう。令和6年度からの新しい指定管理者は、5年度中に募集されるから、その募集があるかどうか、今年(令和5年)中には分かる。それによって他の指定管理館の今後も占うことができるだろう。

 

その他の8館すべてが直営になった場合、少なく見積もっても8館それぞれで、正規職3~4名程度、非正規職12~3名程度の直営職員が必要になる。

まず、正規職だが、杉並区は約3500名の職員がおり、図書館へ配属される可能性の高い事務職は約1600名である。その中から20名程度を図書館へ新たに配置することになる。非正規職も新しく募集することになるが、その数は100名を超えるだろう。その任用には、従前に指定管理館で働いていた人たちが多く採用されることも考えられる。

 

まさに抜本的な改革である。全て直営で非常勤が中心となり、ある程度は安定的に働き続けられる環境が整備された新しい体制ができるのかもしれない。

専門職採用による正規職員のいない直営館には批判もある。専門家集団であるはずの運営会社の担う指定管理の館とどちらが良いのかは、様々な議論があるところだ。私は、どちらが「正しい」などと、ここで論断はしない。

 

しかし、新区長の投じた石が、大きな波を起こすことは必定である。

これまで、直営の図書館が指定管理に替わると、たいていの場合は直営を維持することを主張する図書館関係者が、その図書館を訪ね、批判的な眼差しを向けつつ、新しい管理者とその図書館の状況について論難する光景が良く見られた。曰く、以前に比べ「職員に専門性が無い」「応対が冷たい」「書架が乱れている」果ては「利用者の顔が暗く、つまらなさそうだ」など。

数年後まさに逆のことが起きる。この動きに注目したい。今後の検証を呼ぶところになるだろう。

 

ところで、杉並区に縁もゆかりも無い、ハッキリ言えば「落下傘候補」の新人岸本氏が当選できたのは、杉並区内で保守派が分裂し、票が割れたせいであるという指摘があることは見過ごしてはならないだろう。その結果の僅差だった。

選挙が現職有利なのは当然であり、一度当選すれば今後も有利にはなるが、4年後の選挙も(岸本氏が出馬すればだが)厳しいものであることは容易に想像できる。特に、保守派が候補を一本化できた場合は、かなり厳しいことも考えられる。

 また、当選後の岸本氏は選挙結果が僅差であることを受け止め「自分に投票しなかった人たちの声を聴く」ことも公言している。これがどの程度の「修正」になるのか、その結果がどう4年後に現れるのか。図書館を取り巻く環境としてもなかなか興味深い状態になっている。

 

令和2年度から始まった会計年度任用職員制度は、任用(つまり採用)は「年度ごと」、つまり1年ごとの任期とされている。しかし、「公募によらない再任用」が認められている。「来年もやりたい」と申し出れば、基本的には再任用が認められる。

そしてこの「公募によらない再任用」は、都内は「4回まで」とする自治体が多い。4回更新すれば、次の年も希望するならば試験を受ける必要が生じる。つまり「実質的任期は5年」のように運用されている。

この令和2年度から始まった「実質的な5年の任期」が終わるのが令和6年度である。つまり、多くの非常勤職員は、ここで雇止めになる。そのため、令和7年度からの任用に向けて試験を受ける必要がある。多くの自治体側にとっても、大量に人を募集する年度となる。

つまり令和7年度は、図書館の(そしてそれ以外の職種も含めた自治体の)非常勤職員にとって、大きく人が動くことになるのは、もともと分かっていたのだ。

そこへ(本当にこの文章の想定通りになれば)杉並区の100名の大量募集が加わる。この令和7年度というのは、特に都心部の直営の図書館では、かなり人が動く年になるだろう。